先日、私の住んでいるマレーシアで外国人労働者もEPF(Employees Provident Fund)という、日本でいうところの年金制度が強制加入になるかもしれないとのニュースがありました。
年金と聞くだけで私は良い印象がありません。
しかし具体的に中身も知らずに拒否反応を示すのもどうかと思い、マレーシアのEPFについて調べてみました。
既存の仕組みで外国人にそのまま適用されるかは今のところ不明ですが、近しい仕組みになるのではと予想されています。
今回の記事の多くは、KWSPホームページにある資料を元に作成いたしました。
つくりは日本の年金みたいな感じ?
うーん、根本的な思想が日本の年金とは違うみたいだね。
- マレーシアで働く予定のある方
- EPF(マレーシアの年金制度)について内容をあまり把握していない方
- 資産の積立てに興味がある方
EPFの開始時期と運営母体について
1951年制度開始
マレーシアのEPF(Employees Provident Fund)は1951年に設立されました。
この制度は、1951年のEPF条例(EPF Ordinance 1951)に基づき設立され、その後、1991年に新たな法律としてEPF法(Employees Provident Fund Act 1991)に移行しました。
運営母体
KWSP(Kumpulan Wang Simpanan Pekerja)という組織によって運営されています。
マレーシア財務省によって監督されていますが、独立した組織です。
マレーシアに住む民間企業従業員の老後資金積立てを目的として設立されました。
EPFへ外国人強制加入の実現性と適用方法・仕組みについて
EPFの強制加入は本当に実現するのか?
現状、産業界から反対の声が大きく、個人的には実現するかどうかは微妙なところかと感じています。
外国人を多く抱えている業界にしてみれば、人件費が一気に跳ね上がるためです。
出典:アジアインフォネット労務 外国人労働者のEPF強制加入案、産業界が反発
そりゃあ企業にしてみたら従業員の人数分、支払ってる給料の12-13%さらに負担しろっていきなり言われたら、反対するのは当たり前だよね・・・。
そのため、以下の内容は「もしも実施されたら」という記事になっておりますので、あらかじめご了承いただけますと幸いです。
ちなみに現在のルールで外国人がEPFに任意で加入した合は、本人の給料11%を毎月積み立てていき、会社側の積み立ては毎月RM5のみというケースが多いようです。
積み立てたお金に関しては、前述したKWSPが運用。
2.5%の最低利回り保証が存在しますが、ここ数年5-6%前後の年利で推移しているようです。
実際の利回りは、KWSPの運用収益次第。
拠出金と分配について
今のところ(2024年10月時点での情報)ですが強制加入が実現した場合、積立て方法に関しては2パターン考えられているとのことです。
- 既にマレーシアで働いている人
初年度は毎月、本人・会社が2%を納め、毎年2%ずつ引き上げていき、6年以内にマレーシア人と同等の負担率にする - 新たにマレーシア国内企業と雇用契約を結んで労働を開始した場合
勤務開始時点から本人負担11%、企業負担12%で積立てを開始する
最初から会社負担12%つくなら、強制加入実現後にマレーシアで勤務する人はおいしいんじゃない?
そうとも言い切れないよ。
実現後にマレーシアに来る人は最初の半年の生活が相当苦しくなるんじゃないかな?
外国人税30%に加えて、EPF11%負担で手取りが総支給の50%台って生活が続くことを考えちゃうとね・・・。
ちなみに給料がRM5,000未満の場合、企業負担は13%になります(日本人ならこのケースはレアだと思われます)。
目的別にアカウント区分がある
以下の種類によって分けられています。
- Akaun1( アカウント1 / Akaun Persaraan): 主に退職後のための貯蓄が目的
総資産の70%がこのアカウントに割り当てられ、主に退職後の生活費として使用されることを目的としています。 - Akaun2(アカウント2 / Akaun Sejahtera): 住宅や教育費、その他の目的のための貯蓄が目的
総資産の30%がこのアカウントに割り当てられています。
主に住宅の購入、教育費、緊急時の資金など、特定の目的のために使用されることが想定されています。 - Akaun55(アカウント55 / Akaun Fleksibel): 55歳以降の引き出しのためのアカウント
55歳に達すると、それまでに蓄積されたAkaun1とAkaun2の資金がこのアカウントに統合。
55歳以降の引き出しのための特別なアカウントです。 - Akaun Emas(エマス口座): 60歳以降の生活資金のためのアカウント
55歳以降も働き続ける場合、この口座が新たに開設され、拠出金がここに蓄積されます。
Akaun Emasの資金は60歳まで引き出すことができません。
種類別に分けて保管して、いざってときに使えるのはありがたいね!
支給開始のタイミングは?
55歳以降は資金を自由に引き出せるようになります。
ただ、一般的には60歳まで働くことを想定し、Akaun Emasを利用される方が多いようです。
引き出しについては、55歳にならなとくも特定の要件を満たせば可能。
60歳未満でEPFからお金を引き出す条件
1-5ともに55歳になるまでは部分的にしか引き出せないという点は共通しています。
- 住宅を購入するケース
住宅の購入や建築費用のために引き出しが可能。
対象は自己居住用の住宅に限られ、住宅価格の一部またはEPF口座の一定額を引き出せます。
つまり「投資物件として購入する場合はこの条件には該当しない」ということですね。 - 住宅ローン返済
既存の住宅ローン返済に充てるための引き出しも認められています。 - 教育費
自分自身や子供の高等教育費用として引き出すことができます。
ただし、対象となる教育機関やコースについての規定あり。 - 医療費
自分自身や家族の重大な病気や手術など、医療費支払いのために引き出せます。
特定の医療条件に該当する場合に限定(引き出し対象の病気のリストや、引き出し可能な金額などの詳細な規定が存在)。 - 年齢50歳の引き出し
50歳に達した時点で「Age 50 Withdrawal」という引き出しが可能。
1-4までとの違いは、引き出しに特定の要件が必要とされないという点です。 - マレーシアでの仕事を退職し、恒久的に帰国するとき
所定の手続きは必要ですが、全額引き出すことが可能です。
会社が積み立ててくれた分も引き出すことができます。
日本も年金をもっと途中で引き出せるようにしようよ!
日本の年金とマレーシアEPFの違いは?
端的に言えばマレーシアの場合「自らの老後資金は自分と所属会社で積み立てていきましょう」というスタンスだということです。
実際は運用益が加わるわけですが。
自分で稼いだお金が自分の老後の資金になるから納得感あるよね!
日本のように自分が納めた分が減額され、見ず知らずの方へ分配されることは今のところないようです。
EPFに15年加入してみた際の積立金を試算してみた
EPFの概要はだいたい分かったけど、実際どれくらい積立できるのだろう?
実際に15年積み立てたケースを試算してみたよ!
試算の前提条件
1月1日が誕生日で40歳になった日から加入し、15年間拠出。
所得はRM9,000とする。
55歳の誕生日までにいくら積立てられるか?
年利は平均3.5%とする。
計算式
- 従業員拠出額 = RM9,000 * 0.11 = RM990
- 雇用者拠出額 = RM9,000 * 0.12 = RM1,080
- 毎月の総拠出額 = RM990 + RM1,080 = RM2,070
また、毎月の総拠出額を使うので、年利も月利に直すと
月利率 = 年利率/12 = 0.035/12
= 約0.0029
これらの数値を下記の計算式に代入します。
総額 = 毎月の拠出額 * ((1 + 月利率)180 -1) / 月利率= RM2,070 * ((1.0029)180 – 1) / 0.0029
= RM2,070 * ((1.684 – 1) / 0.0029)
= RM2,070 * 236
= 約RM488,520
という結果に。
2024年10月24日現在、RM1はおよそ34円なので日本円で約16,609,680円となりました。
複利の力ってすごい・・・!
年利を少なめに見積もっているので、この額より大きくなっても不思議ではありません。
EPF制度に安心して寄りかかって問題ないか?
一見、条件は良いEPFですが、最低利回り2.5%保証を続けていくことができるのか?という点に関して、個人的には懐疑的です。
以下の理由からです。
常に利益を求める難しさ
2024年10月現在も、アメリカ・中国とも市場がかなり不安定に。
不況に突入してしまった場合も、果たしてKWSPが利益をキープできるのか?という懸念があります。
とはいえ、リーマンショック・コロナショック時とも5%以上のリターンを実証済み。
おそるべし・・・KWSPの運用担当者・・・。
マレーシア政府が急に制度変更を行うケース
マレーシア政府は突発的に納税者にとってリスクの高い行動をとることがあるので、この点に関してやや不安を抱いている方もいるのではないでしょうか。
例としてラブアン法人の税制変更を挙げることができます。
マレーシアにはラブアン島という金融特区があります。
ここでは法人税3%という低率な税金が適用されていたのですが、なぜか財務大臣ではなく副首相によって2021年に謎な法改悪が承認されました。
「事業要件を満たさない場合は税率24%適用」は100歩譲って分からなくもないのですが、「2019年1月1日から遡のぼって適用される」という相手の事情を100%無視した内容。
2021年の1月の話ですが、事業主は3%払えばいいと思っていた税金を2年遡った分も24%払いなさいと突然言われたわけです。
・・・政府がそんなちゃぶ台返しする?
遡って税金払え!なんてありえないと思うでしょ?ところがどっこい、本当にあったんだよ・・・。
もちろん私は当事者ではありませんが、事業主の方が受けた理不尽は想像に難くありません。
多くの裁判が行われたようで、遡及効に関してはマレーシアの裁判所によって否定されることとなりました。
おわりに
EPF自体はとても素晴らしい制度だと思います。
自分で稼いだお金を自分の老後資金にできることにも大いに賛成です。
ただ、マレーシア政府のスタンスを見ると、数年単位の年金システムを信用するというのはやや危険で、別途貯金や投資を自分で行っていく必要があると感じました。
また、2024年10月現在のダウ平均やS&P500の価格を見ていると、アメリカ市場がソフトランディングできなかった場合、リーマンショックを超えるリセッションが起きても不思議ではないと思います。
そうなったとき、EPF運用がこれまでと同じかじ取りを続けること自体難しくなる可能性も。
「年金はどの国に住んでもついて回る問題なんだなぁ」と、この記事を書いて改めて実感しました泣。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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